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特別講座「17歳ー現代造型言語と空間構成」実施報告
The Practice of the special curriculum for SEVENTEEN-CONTEMPORARY LANGUAGE OF FORMING ART AND SPACE DESIGN

日本基礎造形学会論文集作品集2014 基礎造形 023

Society of Basic Design and art miscellany 2014 

Basic Design and art 023

  1. はじめに

 中国の大学教育は、およそ2ヶ月の夏期休暇終えた9月に新学期が始まる。翌年1月後半迄を前期、そして春節を挟む1ヶ月程の春期休暇の後、2月末から6月末迄を後期とする2期制である。

 本稿は2013年度後期最終の5と6月、2ヶ月に亘る3年生を対象とする特別講座について、指名を受けて実施したのでその工程と成果、そしてその後の研究成果についての報告である。

  「17歳」という不思議なタイトルの特別講座であるが、ここ数年このタイトルで実施されてきたそうだ。しかし例年この時期には他の大学へ出張講義で北京を離れていたので知らなかった。

 このタイトルの命名者は本学院徐仲偶院長だそうだ。17歳頃は将来の方向を真剣に選ぶ時期であり、エネルギーに満ちて将来の夢を膨らませ、それぞれの分野へ分かれる1年前である。学生達はすでに3年間を本学院で学び、卒業を1年後に控えたこの時期に、専攻する分野とは異なる講座を経験することで、より幅広い知識やスキルを得、交友関係を広げることで社会への旅立ちへの心構えとすることと解釈した。

 この特別講座には7つの講座が設定されており、外部から講師を招いて本学院にない分野も含むかなり工夫された講座で構成されている。今回印象的な講座は「伝統礼器」という講座名で中国の香道をモチーフに、同じく基礎造形を教える卓凡副教授が香道師匠と組んで行う講座であった。

 他には音楽や学院ブランド商品開発等、バラエティに富んだ構成となっている。これまで2ヶ月間をまとめて教える授業の経験がなかったことと、造形や空間設計を専攻する学生ではなくそれ以外の様々な学生が受講するので、新しいプログラムを開発する必要があった。

 これまでの基礎造形プログラム自体はどの大学でも高い評価を受けてきたが、他のプログラムとの連携がないことが気になっていた。講師への負担が増し、成果のリスクも大きいと思われたが、思い切ってかなり専門的で高度になる吹抜け空間をユニット作品で構成するプログラムとした。

 4週間ずつ前期と後期に分けて、前期はこれまで同様現代造形言語と称する基礎造形、後期はその成果をアトリウムやモール等の吹抜け大空間にパブリックアートとして構成するプログラムである。このテーマで様々な分野の受講生が、それなりの成果を得られるよう後半プログラムの準備に1ヶ月を要した。 講座名は「現代造形言語と空間構成」となり、学内インターネットで受講生募集があった。幸いすぐに16名の応募があり、定員を満たしたので締め切られた。

 用意された教室ではワークショプには不適と思い、筆者の研究室を使うことにした。4名ずつABCD4組に分け、1.2×2.4の大テーブルに2組ずつ席を用意した。研究室を教室にしたことは今回の講座に大きく貢献した。授業外でも学生達が好きな時間に来て作業が出来、これまでの学生達の成果作品や筆者のスタデイ模型が展示してあるので色々と参考になったようだ。

 

2. 前期プログラムの内容と成果

2-1  楕円造形(第1週)

  これまでの講座では、まず楕円についての講義と実技から始めることにしている。すでに50年近く取り組んできた楕円をモチーフとする創作研究の意図、経緯、成果を模型や映像で紹介することで、これから始まる講座への受講生の関心と期待を高めるためである。

学生にとっては、これまでに見たことも聞いたこともないが、彼らが求めようとする創作研究の取り組みと成果に接し、作家と直接の交流の機会を得たことで講座への集中力が増すようだ。

  ワークショップは楕円の描写から始まる。大学入試の準備で、コップや花瓶の縁を描く時は水平楕円、自転車の車輪等では垂直楕円を描く経験をしている。しかしこれらは物としての楕円である。このプログラムでは絵から図へ、即ち概念としての楕円へ見方や意識を変えるところから始まる。

筆者考案の簡易にできる「楕円観察器」(図1)を各自スチレンペーパーで制作して、水平と垂直の楕円の変化を目と水平の位置で観察する。この時造形やデザインで多用される45度楕円、六角形を三等分する菱形に内接する35度楕円、長軸と短軸の比が2対1となる30度楕円等が重要でよく観察し、トレーニングペーパーで宿題として練習しておく。週末には30分のテストを行った。このテストで学生の理解力と描写力が大体判定出来る。(図2)いつも不思議に思うのはこの時の評価が最終の評価とほぼ同じなることで、文字を書く能力との関連があるのだろうか。

この週のプログラムでは、一人1点ずつの楕円ユニットの制作もある。45度楕円を45度でカットして出来るユニットを、スチレンボードでスケルトンを作って磁石をセットする。中厚紙で囲んで仕上げる。この工程では楕円構造と面の関係を学ぶことになる。(図3)

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図1楕円観察器

図2楕円図テスト学生作品

2-2  変換造形(第2週)

新しいテーマとして3年程前から研究創作を進めている。

当初形の異なるユニットを繋ぐユニットとして発想したが、現在では彫刻作品のエスキースも出来るようになった。このユニットもオーバルユニットと同様の方法で作る。

 変換造形の概念は、ある形から別の形へと変化する時のプロセスを形にしたものであり、媒体又は触媒とも言える造形である。ポジとネガを駆使することで様々な形を繋ぐことが出来るので、学生達の関心も高い。(図4)

この週では各組異なるユニットを4点ずつ作成し、次の情報造形プログラムへの準備として組成調査をした。(図5)

 

2-3情報造形(第3週~4週)

情報造形については、先回の論文で詳細を報告してあるので省略し、今回は前期成果として作品のプレゼンパネル1点を紹介する。(図6)

第4週が終わる頃、各講座の中間報告が二つの教室に別れて行われた。講師と受講生達を前に、本講座では4組の各代表がPPTを使ってそれぞれ10分程で報告した。又この時点までの成績の提出を求められた。

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図3 楕円ユニット模型

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図4 楕円図テスト学生作品

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図5 授業風景

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図6 前期プレゼンパネル

3. 後期プログラムの内容と成果

3-1 吹抜空間設定

 6月に入って後半の吹抜空間構成のプログラムが始まった。このプログラムを思いついたのは、以下の理由からである。中国の都市化はその規模といい、進む速さといい、世界が瞠目するところである。どの都市を訪れても、すでに立ち並ぶ高層建築の間に多くのクレーンが動いて、新しいビルの工事が進んでいる。

これらの都市施設は、ホテル、オフィス、商業施設や公共施設であるが、それらの多くは、吹き抜け空間を有している。しかし、その吹抜空間において、印象に残るアートやデザインを見かけないので気になっていた。外観ほどに内部空間の充実が図られていないようだ。そこで、この吹抜空間へ学生たちの情報造形作品による空間構成にチャレンジしてみることにした。

  課題となる吹抜空間は 4 チームの学生達のために、彼等が体験したことのあるショッピングモール、空港、ホテル、高層建築の 4 種類の吹抜大空間を設定した。これらのかなり専門的な空間設計を、概念的とはいえ同時に4種類それなりのレベルで用意するには、一般的には専門家に依頼することになろうが今回は筆者一人で用意した。これは 20代から30代にかけて国内外で建築設計に関わる機会が多くあったからである。初期の頃は建築模型制作に取り組んでいた。図面から立体や空間を想定しながら模型を制作することで多くのことを学び、その後の造型活動に大きく役立っている。学生達にも立体と空間の関係を体験するには、模型によるスタデイが最も有効と考えたので、4 種類の吹抜空間を設計し、その概念模型を 100 分の1で用意した。

 

3-2 吹抜空間構成(第5~8週)

 この空間設定模型と各チームの前期の成果作品との擦り合わせを、入念なデイスカッションを重ねながら行った。まず空港アトリュウムとホテルロビーでは、空中には照明機能を持ち全方位的な形態が望ましく、フロアでは分かり易いイメージの作品がふさわしいとのことから、空港へは A組の球系の作品 ( この時点では三枚のパネル状だった ) と左右対称の人型の作品が選ばれた。また空港には B 組のリング状の作品と、水鳥の様々な姿を表す作品が飛立つとのコンセプトで選ばれた。

 これらの二ヶ所が決まると、残りのショッピングモールではエスカレーターが重要な空間を要素となっていることから、登り口にインパクトのある C 組のアーチの作品、空中には登りながら形の変化を楽しめる作品が選ばれた。また高層建築のエレベーターホールでは、上下の異動による視点の変化に対応して、D組の壁面には上下に長いレリーフ、エレベーターの前には抽象造型でありながら、ミッキーマウスをイメージする作品をアレンジした。これらの作品は同じモデユールの立方体なので空間にまとまりができることも理解された。このマッチングの課程が後半の講座で最も重要だったので、ほぼ一週間を費やして全員が納得出来るよう話し合った。この過程では又造型だけでなくコンセプト設計の重要さも学んだ。

 

3-3 プロジェクションマッピングの制作

 本講座ではもう一つの新しい試みにも挑戦した。最近急に先端アートとして国際的にも活発な活動が見られるようになったプロジェクションマッピング(以下画像投影と称す) を空間演出の一環として実施した。

 この秋からニューヨークの視覚芸術学院大学院で学ぶことになった曹雨西君は、3年前筆者のパブリックアートの授業で、課題は長江中流域の古い都市における環境遊具の提案であったが、当時まだ中国で知られてなかった 画像投影を歴史的な建物に投映するムービー作品を制作した。筆者もまだ画像投影のことは知らなかったが、新しい表現として認め評価したことがあった。その後英語の堪能な彼に通訳を時々頼んだりしていた。今回彼に学生達のユニット作品に、画像投影を依頼したところ快く引き受けてくれた。

 2日程教室に詰めてくれ映像は完成した。制作中学生達は自分達の作品が画像投影で刻々と変化することに驚いていた。先端アートに接したことで感じたことは多々あったことと思われる。

 本稿では各作品への画像投影に静止画像しか提示出来ないが、サイトに動画を発表しているのでそちらもご覧頂きたい。

 今回の画像投影の制作で分かったことは、情報造形の作品が多くの多角形の面で構成されているため、それぞれの面がクッキリと分割され、オプティカルな効果が非常に高いことである。実際のスケールの作品ではより一層の効果が認められると思われる。特に屋外のモニュメントで期待されるので、今後は 画像投影作家とのコラボを実現出来るよう機会があれば提案していくことにしたい。(図7)

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図8 ホテルロビー空間構成模型

下左 「衛星ーPLANET」

下右 「京劇ーBEIJING OPERA」

図7 プロジェクションマッピングの静止画像

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図9  空港アトリウム空間構成模型

下左「日輪ーSUNSHINE」

下右「水鳥ーWATER FOUL」

課題1:ホテルロビー空間構成模型 

円形の吹き抜けスペースの両側の曲面の壁に沿って2階へ上がる階段がある、よくあるホテルのエントランスロビーである。スペースの中央にシャンデリアに代わって球状のオブジェが吊るされている。左右の階段の登り口には、2階への誘導を表す人型の左右対称形のフィギャーが置かれ、球と平面的な造型が対比する空間が構成されている。

 

1) スペース作品:惑星-PLANET

同じユニット24個が密着して球状の形を構成している。この作品はこれまでの学生作品では前例のない完成度を持つ作品である。学生はユニット12個迄達成し、筆者の指導で12個を追加して球系に至った。中央のスペースに置かれると、全方位の視点から鑑賞出来る。素材や構造を研究すれば、実現の可能性の高い作品である。

 

2) フロア作品:京劇-BEIJING OPERA

  左右対称の2種類のユニットで構成された対称形のフィギャーが、ユーモラスな仕草を表しているので、京劇の人物とした。

平面的なので前後に異なる投影で京劇のイメージを表現し、階段登り口に置いて二階への誘導の演出とした。この作品では抽象形態でも具象表現が出来る可能性があることが分かった。

A組 : 朱 琦 (家具デザイン) 黄清芳 (情報デザイン) 藤愛美 (家具デザイン) 王少堯(アニメーション)

課題2:空港アトリウム空間構成模型

国際空港には複数階を貫くアトリュムが多く見られる。

この空間は待合スペースではなく移動空間として設定した。

昼間は外光が十分であるが、夜間の照明装置として空中にリング状のオブジェを釣り、1階フロアには水面に遊ぶ水鳥を複数置く。各フロアを交互に波打つようにデザインし、ダイナミックな空間構成とした。各フロアのテラスは休憩スペースとして利用出来る。

 

1) 空中作品:日輪-SUNSHINE

 閉じた円環は13分割出来ないはずだが、模型では僅かの隙間で調整されているようだ。これまでも輪に閉じるユニットの模型はいくつかあったが、正確には六角形と八角形等偶数例が少しあるだけだ。この作品は美しく纏まった形なので、空中の照明装置として選ばれた。

 

2) フロア作品 : 水鳥-WATER FOUL

 三種類のユニットが合成されたユニットは、どの組み合わせも水鳥を連想させる。床にガラスで水面をデザインしてデコイのように木で作り複数設置する。翔び立つ姿や羽根を休める姿が、フロアに旅立つ思いと安らぎを漂わせるであろう。

投影で様々な鳥の姿を表す演出も可能である。

B組 : 徐小宇 (家具デザイン) 金宇千(家具デザイン) 張 慧 (ディスプレイ) 候青林(ジュエリー)

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図10 高層建築エレベーターホール空間構成模型

下左「ミッキーマウスーMICKEY MOUSE」

下右「嶺ーRIDGE」

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図11 ショッピングモールエスカレーター空間構成模型 下左「交流ーEXCHANGE

下右「葳(wai)ーY」

​課題3:高層建築エレベーターホール空間構成模型

高層ビル展望エレベーターの下層階の吹抜空間を想定した。対面には縦長の壁面にレリーフが取付られている。エレベーターの前面に作品が置かれているが、エレベーターが動けばレリーフは見える。二つの作品は同じモヂュールのキューブから構成されており、一体感がある。垂直と左右の動きによる視界の変化を考慮した。

 

1) フロア作品 :ミッキーマウス-MICKEY MOUSE

 キューブをカットしたユニットを、上下を直角にブロック積みして構成した作品で、視点の角度で上下の形が変わる。

エレベーターの前に視界を塞ぐように置き、上昇すると前方に壁面レリーフが現れる。一般にミッキーは円で表現されるが、正方形でもイメージ出来るようだ。

 

2) 壁面レリーフ :嶺-RIDGE

 縦長の壁面は黒御影の重厚な石壁を想定した。正方形の

ユニットは対角線が鋭い嶺となっている。学生の組成作品例から筆者が選んでデザインした。A組の「惑星」同様学生との共同作品である。レリーフはステンレスやアルミ等の金属か、大理石や白御影石等が想定される。またこの作品には投影効果が期待される。

C組 : 賈 建(ディスプレイ)  陳円円(ディスプレイ)     冀堯璐(ビジュアル)    潘 坤 (アニメーション)

​課題4:高層建築エレベーターホール空間構成模型

学生達が最も親しんでいる吹抜空間だが、中国では商業 施設だからかアートを感じさせるスペースはほとんど見られない。先進国では重要なアートスペースとして優れた作品が多い。香港で見た3階までの長いエスカレーターの印象が強かったので、楕円形の吹抜けとエスカレーターを組み合わせた大空間を設定した。

1)スペース作品: 「交流ーEXCHANGE」

ユニットは正三角形と直角二等辺三角形の多くの面で構成されている。そして僅かだがそれぞれに凹凸がありながら六個で正六角形の輪となった不思議な作品である。3箇所 のピンポイントで接続し空間を孕む六角柱に纏め、斜に吊 るすことで、エスカレーターで登る時また各フロアからも形の変化を見ることが出来る。

2)フロア作品: 「崴(wai)ーY」

エスカレーターの登り口を覆うように設置する。機能的 にも法規的にもクリアしており、登りだけなので非常時の障害にはならなく、相当のインパクトがあると思われる。 この作品名は山や川の湾曲した所、多く地名に用いる字だと辞書にあった。

D組 : 劉亜南(家具デザイン) 王翰林(アニメーション) 尉然 (アニメーション) 黄雅棟(アニメーション)

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図 12 A組空間構成パネル

図 13 B組空間構成パネル

図 14 C組空間構成パネル

図 15 D組空間構成パネル

4. プレゼンテーション

4-1 模型制作

 デザインとアートにおいて模型でのスタデイが重要であることはよく知られていることである。また模型はそのままプレゼンにも有効であり、客観的に評価できるので関係者のコンセンサスが取り易い。受講生の中には平面を専攻する学生も半数いたが、本講座でもスペースの模型を各組75分の 1 のスケールで作成することになった。

 その模型にセットする作品模型は、小さすぎるので学内 の工房に依頼して3Dプリンターで制作することになった。 そのためにパーツをレーザーカットするデータと3Dプリン ターのためのデータ作成を行った。クラス外の友人の力も 借りて各組なんとか間に合わせたが、データのミスらしい が、出来てきたものは殆ど完全ではなく多大の費用を負担してのことだったので残念であった。この時点で連日遅く まで取組み、ほぼ8割程出来ていたスペース模型の制作作業をストップした。

学生達にとってすでにここまでの模型制作経験で、本講座では十分であると判断したからである。展示には100分の1模型に紙で作った作品模型をセットすることにした。

4-2 組作品プレゼンパネル制作

 4 つの組は、作品の概念として設定空間とのマッチングと空間構成や演出について、簡単な建築設計図、構成空間の効果図等、経験したことのない作業であったが集中して取組みようやく期限に間に合わせることが出来た。それぞれのデータ作成作業を分担して全員でシェアしたのが良かったようだ。

パネルデザインには各組グラフィックデザインの学生が 担当したので、それぞれ個性的なパネルデザインが完成した。(図12~15)

4-3 展覧会

 講座の最終プログラムは成果作品の展示である。学内の 地下展示場へ、全講座の展示が始まった。ごった返す会場へ全員で作品を搬入し、レイアウトプランに沿ってディスプレイを専攻する学生がリーダーとなって手際良くセット出来た。この日の午後には講師が一同に集まり報告会があった。プログラムの内容から展示が終らないと予想されて いたのか、本講座のみPPTによる報告となった。直前に連絡を受けたにも拘らず学生達は用意しておき、担当の学生が堂々とプレゼンした。いつものことだが、中国の学生のプレゼン能力の高さと自信に溢れた態度には感心するばかりである。

 国際的な交流やビジネスが重要になった現在では、プレゼンテーションの重要性は誰でも認めるところである。本講座ではプロセスを重要視したこと、全員参加で各組一体になって取り組んだこと、新しい情報や専門的な知識に触れることで、多くの感動を得られたことについて述べた。また最後の画像投影は、参加した講師達に大きなインパクトを与えたようだ。15分のプレゼンが終わると大きな拍手が会場に響いた。

翌日は徐学院長、王副学院長を始め指導者達が視察に会場を訪れ各講座の展示ブースを巡回した。その後の講評会で講師全員が2票ずつ持ち、評価する講座への投票があった。 本講座のみ講師一人だったにもかかわらず、上位の講座に選ばれた。同席した学生たちも喜んでいた。またPPTのデータを学院長と胡雪琴ディレクターから教務資料として提出するよう求められた。

学生達にとっても講師達にとっても、長い2ヶ月であったが、この後始まる2ヶ月の夏期休暇への期待が参加者全員の疲れを癒してくれるだろうと思った。(図16)

5. 講座についてのまとめ

 今回の特別講座での目標は、前半1ヶ月の基礎造形プログラムによる成果を、後半の応用プログラムである吹抜空間構成にスムーズに繋げ、それなりのレベルの作品に仕立てることであった。そのためには設定空間にマッチできるよう各組の成果作品の選定、調整と指導が重要であった。

  今回高い評価を得ることができたのは、まず異なる専攻の学生達にも共通して重要である基礎造形を学んで、それぞれ特色のあるユニット作品を創出できたこと。そして専門性の高い空間構成にチャレンジし、互いに協力して次の作品も完成できたことからであろう。

これまでのプログラムでは、ユニットを左右対称にするように指導していたが、今回はそれに限定しなかったことや、異なる専攻の学生達でクラスが編成されたことで、より複雑なユニットが出来たようだ。

 新しい経験となった特別講座では、 調整と指導、そしてコミュニケーションにはこれまでより多くの労力を要したが、課題である設定空間にほぼマッチした構成になった。

基礎と応用が一体になったプログラムとして今後の展開も期待している。

 次回このような機会があれば、ランドスケープを教える専門家とのコラボで、ユニットによる成果作品を、インタラクティブな遊具として構成するプログラムを実施してみたい。素材や機能、そして水や光等総合的な環境芸術としての空間構成が課題となるであろう。

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2014年「十七歳」特別講座名(学生数)教師名:

1.ブランド設計 (48名) 胡雪琴、李明熹、馮薇

2.ジュエリー制作 (32名) 朱丹燚、田媛

3.公共芸術論 (25名) 姚昕、陳霞

4.アニメ制作 (29名) 程楠、呉舒

5.サウンドアート (32名) 丁昕、周日升、顔峻、孟奇

6.造形言語と空間構成(16名)松尾光伸

7.伝統礼器 (32名) 卓凡、林杏芳、罗子杰

6. その後の研究成果
6-1 学生作品「衛星」の分析

 今回の講座で高い評価を受けた黄清芳の作品「衛星」を講座終了後早速分析してみた。( 図6 及び図7下段左参照)

この作品の構成ユニットは、十四面体に四角錐とカットされた立方体が付け加えられていることが分かった。そしてユニット 4 個で八角形のパネルとなり、パネル 6 枚で外観は球系多面体を形成している。( 学生は講座前期でパネル 3枚まで達成、後期で筆者の指導により 3 枚を追加し球系に至った。)

 付け加えられた四角錐とカットされた立方体は、ユニット数を増やしながら組合わせて、様々なフィギヤーを調査する過程では大きく寄与していることが認められた。球系に至る迄にはユニットが全部で 24 個必要であった。

 

6-2 ( フラクタル ) 球系複合多面体について

 この作品が数学的な法則を示唆していることから、基礎造形としてのアプローチによる研究に取りかかった。まず基本的な造型要素としての立方体と、十四面体の 2 種類の多面体ユニットをそれぞれ 4 個ずつ計 8 個で 1 枚のパネルを作った。( 図17) 次にパネル 5 枚を追加してユニット合計48 個による球系複合多面体を構成した。(図18)

 この球系複合多面体をよく観察してみると、驚くことにフラクタルと思われる現象が、外部と内部空間に認められた。まず6枚のパネルの四角の稜線は内外に共有しており、これらの 12 本の稜線が立方体として、そして外部は膨らんで見えるものの十四面体の相似形である。また内部空間にも、接する二つの十四面体が共有する頂点を結べば、ネガテイブ又はゴーストとも言える小さめの十四面体が認められたのである。これらの現象は構成要素である立方体と十四面体が内外に相似形として現れているといえよう。

 6枚のパネルに正方形を示す面には銀色で、三角形を示す面には金色で、接合面には白色で色分けしてみた。外部の十四面体は見分け易いが、内部についてはこの写真では理解がやや困難かと思われる。十分ではないと思われるが概念としての線図も作成してみた。(図20)

 この研究によって二つの概念が提起されている。まず一つは二種類の多面体ユニット48個の構成による、一部に隙間はあるものの内部空間を擁して閉じている球系複合多面体という概念。二つ目は一般に知られている無限に繰り返されるフラクタルではなく、多少の変形が見られ、ゴーストであり、また数も限られているが、二種類の構成多面体との相似現象が認められることである。これらの概念と現象がどのように学術的に定義されるかは、今後寄せられる知見を待つことになろう。

 改めて今回の特別講座に熱心に取り組んでくれた学生を始め、忍耐強く助手を務めてくれた賀佳、新しい息吹を送り込んでくれた曹雨西、そして関係者の皆さんに深く感謝している。

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図17 立方体4個と14面体4個によるパネル

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図18 立方体24個,純正14面体24個による(フラクタル) 球系複合多面体の外観

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図19 パネル1枚をはずした内部空間

図20 立方体4個と純正14面体4個によるパネルにおける 正方形構成概念図

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