情報造形システムによる環境彫刻の創作
Environmental Sculpture by the system of INFORMART
日本基礎造形学会論文集作品集2013 基礎造形 022
Society of Basic Design and art miscellany 2013
Basic Design and art 022
「生命場ーFIGURES」
ステンレス / 2.6mHx0.26~1.3mWx0.26mDx12点 / 2008年 / 北京オリンピック記念公園収蔵
直線と曲線5種の単位4個ずつの組み合わせで、3万の形を表すことができる<情報造型>による環境彫刻である。 12体各々の形は人々の動きをイメージさせ、オリンピック競技における生命の躍動感を表している。
1.はじめに
本作品は、2008年北京オリンピック主会場(鳥の巣)に隣接した開催記念彫刻公園に、招待作家作品として他の作品と共に大会開催直前に設置された。広大な緑地公園は、現在では観光客や市民の憩いの場となっている。
その後出版された報告書と作品集からなる<凝集夢想― 北京オリンピック彫刻コレクション100>によると、全体では100点の作品が設置されている。作家の内訳は、中国56名、海外44名(コンペ24名、招待20名)となっている。
2.中国における彫刻の現状
中国には、世界に誇る西安の兵馬俑や陶三彩の馬等優れた彫刻が数多くある。現在でも彫刻文化にかける情熱は他の国に例を見ない程であり、各地では都市彫刻やパブリックアートへの取り組みが盛んである。しかし抽象彫刻に取り組む作家はまだ少なく、独自の優れた作品も少ない。都市づくりで求められるようになった抽象造形作家の育成が、造形美術教育機関で喫緊の問題となっている。
これは中国において近代美術教育が、ロシアのアカデミーから導入されたものであり、絵画や彫刻が政府のプロパガンダとして、指導者像や戦勝モニュメントとして盛んに活用されてきたことによるものと思われる。
このオリンピックプロジェクトにおいては、海外からの作家の内、具象作品の出品作家は4名のみでほとんどは抽象作家であった。中国作品では抽象作品が25点も出品されてお り全体では抽象作品がかなり多くなっている。これはこの分 野の指導者たちが、すでに国際的には抽象作品が主流に なっていることを考慮して、その方向性を中国内外へ示唆し ているものと思われる。
3.作品創作研究の経過
本作品は、1982年スコアという新しい概念によるシステム彫刻として発想し、20年以上の創作研究のプロセスを経て創作された作品である。
1981年文化庁芸術家在外研修員、ハーバード大学客員 芸術家として滞在した視覚芸術センター(ル・コルビジェの 米国における唯一の設計作品)で開催した個展の作品「オ ーバルモデュラー」が、その後のヨーロッパ各地(イタリア、 ギリシャ、ドイツ、イギリス)での<柱の造形>をテーマとする 研修旅行体験とその後の研究で、円柱と楕円柱をユニットとする、組み合わせによる作品「フィギャーズ」として譜面化 (形状化)された。(図1)
続いてエスキース模型(図2)を制作し、84年にアトリエ開設を記念して周辺の原野で、人ほどの大きさ50点(桧材)の群彫刻作品で、インスタレーションによる個展を開催した。この作品は広がる原野に点在し、参観者も作品と視野の中で 一体になるという、インタラクティブな環境彫刻作品であった。 (図3、図4)
その後86年には神戸須磨離宮公園現代彫刻展へ、陶管とステンレスによるハイブリッド彫刻として出品した。神奈川県立美術館賞を受賞し、その他の美術館や公共施設など数 箇所に設置されている。(図5)
88年名古屋櫻画廊での個展では、曲線の「フィギャーズ」をステンレスで制作し出品した。(図6) そしてそれからの研究で、直線と曲線との組み合わせによるフィギャーは、3万を超えることを確認した。本作品はこ れらの中から12点を選んで構成したものである。
4.その後の展開
この「フィギャーズ」シリーズに続いて、90年には楕円筒 によるユニット作品「オバロジーユニット」が出来ていたが、 その後10年ほど進展はなかった。
しかし中国で再びそれらのシリーズについて研究創作を 開始したところ、この数年間の研究で多角形シリーズも増え、 全体では組み合わせは無数となった。また基礎造形教育プ ログラムとして、中国の多くの美術系大学で講座を持つよう になり、現在では<情報造形>として多くの参加者を得て、 社会化への展開が行われようとしている。(<情報造形>に ついては論文集に掲載)
図2 「フィギャーズ エスキース」 1984 / 紅松 / 25cmH
図1 2ピース及び4ピースによる組み合わせスコア
図3、4 「フィギャーズ」 1984 / 桧 / 1.7mH
図5(左) 1986 /セラミック、ステンレス /2.4mH
図6(右) 1988 / ステンレス/ 1.8mH