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中国 清華大学芸術博物館屋外設置作品
Monument for TSINGHUA UNIVERSITY ART MUSEUM

日本基礎造形学会論文集作品集2016 基礎造形 025

Society of Basic Design and art miscellany 2016 

Basic Design and art 025

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上 ピロティ背景

左 ピロティより研究棟背景

右 後方より作品側面と軌跡、 背景はホテル

「歴史の輪」ー歴史は五大陸交流の軌跡ー 

制作年 : 2016年
サイズ : 高さ5.1メートル、幅8メートル、奥行1.5メートル 素材 : ステンレス、耐候性鋼板(コールテン鋼)

1. はじめに

 清華大学は1911年米国留学予備校として北京に設立され、国際的にも有数の総合大学として知られている。清華大学美術学院は1956年に創立された中央美術工芸学院が1999年に吸収されて開設された。

 この9月半ばに開館した芸術博物館は、美術学院と建築学院が収蔵する中国の美術工芸品や家具、建築資料や様々な分野の学術資料の保存、そして教師や学生の作品の展示発表及び企画展開催を目的とする。設計はサンフランシスコ近代美 術館を代表作とするスイスの建築家マリオ・ボッタ氏に依頼された。 建築総面積は3万平方メートルに及ぶ巨大な芸術博物館で、筆 者が勤務する中央美術学院美術館(磯崎新氏設計)の2倍、日本の 東京芸術大学美術館(六角鬼丈氏設計)の3.5倍の規模である。

 開館展はレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」1611~16 油彩模写、作者アンドレア・ビアンキ、アンブ ロジアーナ図書館(イタリア)蔵、60点に及ぶスケッチと手記及び模型の展示構成となっており、世界的な展覧会とし てこの芸術博物館は国際的にも注目されると思われる。

 この施設の出入口周辺は円柱が立ち並ぶピロティ空間として設計され、周辺は芝生に囲まれている。ここに5点の新作と4点の大学構内収蔵の彫刻作品が設置された。新作の内2点は外国作家に依頼され、1点はイタリア人作家でもう1点は筆者である。筆者の作品は北側の3棟の高層ビル(先端物理化学研究/教学棟)との間の芝生に置かれた。この作品についてこれまでの経緯や作品の概要ついて述べたい。

2. 作品の経緯

 本作は日本国内にも1990年代半ば頃、JR武蔵境駅前に1メートルほどの直径で制作し設置されている。 そして2012年安徽省蕪湖(ウフ)市の彫刻公園で開催さ れた第2回国際彫刻展に出品した3.5メートルの作品「歴史の輪」が銀賞を受賞した。

 この年の9月半ばには数日間中国全土で反日暴動が多発し、 多くの日本関係施設や自動車などに被害があった。この展覧 会はこの直後の月末に開催され、審査が前々日に行われた。 筆者の作品は会場中央部の円形広場に設置され、暴動直前までは金賞が予想されていたそうである。しかしそのような状 況の中で受賞は考えられなかったが、前々日の審査直後銀賞受賞と、非常に危険な状況なので開会式後に改めて招待する と連絡を受けた時は感動した。このような状況でも関係者は最大限の努力を惜しまず文化交流の自立を貫いたことにである。その後美術系大学でのフォーラム等で、主催した中国彫 塑学会の主要メンバーに出会った時にはこの作品についての評価を度々聞いていた。(註1)

 今回の清華大学芸術博物館前庭へこの作品「歴史の輪」の 再制作設置依頼は、この3月に彫塑学会が清華大学美術学院と共に新たな開設に協力した、浙江省義鳥(イウ)市の国際彫刻公園での第一回国際展へ審査委員として招かれた折、曽 成鋼会長(清華大学美術学院彫刻系主任教授)より受けた。曽 会長からは又、現在韓国と交互に開催している中韓彫刻交流展に日本の彫刻学会 (一般社団法人日本美術家連盟彫刻部が 該当すると思われる。)も参加して欲しいので、繋いでもらい たいとの依頼を受けた。(註2)

3. 作品概要

 筆者は同型の作品が複数の場所に設置される場合は、置かれる環境に応じて台部の演出を変えている。武蔵境駅前では ステンレス円柱の台、ウフ市では円形の広場なので五角形の 石台とした。

 今回は五つの楕円が構成する輪が回転しているイメージを 強調するため、地中に埋まった巨大な楕円形の側面にその軌 跡を表現した。台部は耐候性鋼板で作られ、スロープに五つの楕円の側面と同じくグラインダーで軌跡のパターンの形状 を貼り付けた鋼板に付け、バーナーで炙って黒色にしたが初 めてのことで今後の色の変化は予想出来ない。楕円の表面部 はステンレス鏡面仕上げとなっている。

 一般にどの国においても平面部の鏡面仕上げは溶接の際歪 が出るため行わないことになっている。ウフ市の作品の製作工場でも最初拒否されたが、僅かに膨らませることで可能であると説得し実現した。この技術には工場だけでなく、作家達も驚いたようだ。今回も同じ工場だったので問題なく製作された。

 今回設置されたそれぞれの作品は、古代ギリシャローマスタイルから現代彫刻表現における多様性に富んでいる。具象彫刻は4点、抽象彫刻は5点であるが、作品選定には関係者の考慮が相当あったと思われる。

中国内だけでなく世界中から知的分野の人々が多数訪れる、この大学の新しく重要な施設に作品が選ばれ、12年の中国滞在における研究創作、そして教育活動の成果の一つとして認められたことに喜んでいる。改めて中国の懐の深さに感じ入っているところである。

註1:中国内の彫刻作家及び教師、評論家等千数百名の会員を有し、国際的な活動も活発に行っている。2008年の北京オリンピック開催記念彫刻公園への100点の彫刻設置を主催した。

その内の20点は海外から招待した。アジアからは韓国から1名、日本から筆者が招かれた。その後筆者を含め数名が顧問として名前が残っている。

註2:今年3月に深圳の画廊で開催した個展の作品を大連の 工場で制作したことから、在大連日本領事館との交流の機会 を得た。 今回の日中韓彫刻交流展について、日本美術家連盟の彫刻 部の幹部には知人が複数居り話を持って行くことは出来るが、 実行となると日本政府のバックアップが必要と思われるので、 在大連領事館から北京大使館の文化担当者を紹介してもらうことになっている。

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左:清華大学芸術博物館 鳥瞰図
右: 芸術博物館開館式で、筆者の作品について感想を語るマリオボッタ氏

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