情報造形、フラクタル、空間充填の三つの特性を持つ多面体について
無限分形多面体とその派生形態
THE POLYHEDRON THAT HAS THREE CHARACTERISTICS OF INFORMART, FRACTAL, AND SPACE-FILLING
THE INFINITE FRACTAL POLYDEDRON AND DERIVATIVE FORMS
アジア基礎造形連合学会2015 成田大会 学会誌 -論文集・作品集・口頭発表要集-
Conference & Exhibition of
Asia Society of Basic Design and Art in Narita 2015
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はじめに
基礎造形023で発表した―「情報造形」成果作品による吹抜け空間構成講座の実施報告―の最後の頁で、立方体と準正十四面体がそれぞれ24個ずつで複合球系多面体を構成し、その球系多面体の外観と内部に立方体と十四面体の形状が擬似的ではあるが自己相似として認められるので、この現象はフラクタルの一種ではないかとの仮説を提示した。
その後情報造形とフラクタルの関係に関心を持つようになり研究創作を深めた。今回見つかった多面体は、情報造形、フラクタル、空間充填の3つの特性を持っている極めて特殊な多面体である。この論文では、研究創作の過程で作成した模型の写真や図を参考図として多く提示し、理解し易くなるよう構成した。
2. 「無限分形多面体」について
この多面体は底面が正方形で、天面はその√2分の1の辺からなる正方形が2つ対角線を軸に頂点で接しており、側面には正三角形が4つ、二等辺三角形が8つで構成されている。(図1、図2、図3 )
まず情報造形としては同型のユニット2個の組合せが32ある。 (図4) 4個では10000以上の組合数が予想される。注1)ここではその内のいくつかを紹介する。(図5)またこれらの一つのレベルだけではなく上下のレベルでも組成できるので、無限に組合せが可能となる。(図6)従って情報造形としてはこれまでの概念とは異なる新種のアイテムであり、新たな展開の可能性を持つ多面体ユニットである。
図1、図2 無限分形多面体
図3 展開図
図4 ユニット2個組成32例
図5 ユニット4個組成12例
図6 ユニット3層組成6例
次にこの多面体ユニットは、天面の二つの正方形の辺が底面の√2分の1の長さなので、この面に接する底面を持つ多面体の天面は、√2分の1に縮小し4つの面に増える。このように√2分の1に縮小しながらその数は2倍に増殖する。自己相似で2倍に増えながら限りなく増殖するフラクタルである。(図7)
またこの多面体の同型ユニット4個の組合せで確認できるが、底面は4つの正方形、天面は8個の正方形が升目状に密着している。(図8)この状態で広がっていくので、このレベルでの水平空間充填が可能である。フラクタルで無限に上下に伸びるので、その全てのレベルで水平に行えば3次元における完全な空間充填である。
このような特性を持つ多面体は極めて稀と思われるので、「無限分形多面体」と命名した。(フラクタルの中国語訳は分形―FenShenである。)
図7 ユニット5層フラクタル
図8 ユニット4個充填組成の表裏
フラクタルはマンデンブローによって定義づけられた自己相似を数学的に表した概念であるが、この多面体のフラクタルは代表的なカントール集合(図9)を上下逆さにした現象に近いと思われる。カントールの場合は3分の2で分岐を繰り返すが、この多面体での分岐数は上へは2で下へは2分の1を繰り返す。比例は上へは√2分の1、下へは√2倍となる。即ち白銀比例となっている。
現在CG等で多くのフラクタル作品が発表されているが、殆んど平面作品で立体作品は少ない。また情報造形や空間充填と言った他の特性を持つ例は皆無であろう。今回の「無限分形多面体」は、フラクタル及び空間概念の研究に新たな一石を投じるものと思われる。
図9 カントール集合
3. フラクタル楕円錐ユニット
既に1974年に楕円錐の作品があった。今でも楕円錐については余り知られていないので、楕円造形の授業でその作品を学生に制作してもらい構造を、体感し理解してもらっている。言わなければ分からない程の楕円錐を断面が正円となる角度(この場合は15度)で交互にカットした面で、回転(ユニバーサルジョイント)させると楕円錐は傾斜する原理を応用した作品である。(図10)
情報造型ユニットのアイテム展開の時、マザーである楕円ユニットの正円を正方形に置き換えてみたら、準正十四面体の同型4等分割体のユニットが見つかった。(図11)今回はその逆になるが、この多面体ユニットの正方形を正円に置き換えてみた。底面を共有する二つの楕円錐によるユニットができた。(図12)
今回のフラクタル楕円錐ユニットは底面も天面も水平である。側面は2つの楕円錐であるが、ジョイント部に極少量の不明な曲面が認められる。底面と天面の直径の比は1対√2で白銀比例であり、この比例で上方向には縮小し、2倍に分岐していく。下方向にはその逆で√2倍に大きくなり分岐数は2分の1となる。(図13)このユニッは模型を制作するのに非常に手間が掛かるので、今回はCGでフラクタルを表した。
作家としてはフラクタルを証明するだけでは充分ではないので、この原理による作品の制作に取り組んだ。楕円錐ユニットの天面の二つの円を中心が底面の円周と重なる位置迄離したところ、側面からは 字型のユニットができた。このユニットによるフラクタル3層の上下に円柱を付けた形が作品である。柳の街路樹が度々切り揃えられ、複雑に重なる瘤状の部分から真っ直ぐに立ち上る枝の生命力をイメージした。フラクタルとは自然界の成長現象そのものを表している概念だからである。
図10 曲がる楕円錐 原作1974年作
図11 楕円ユニットと菱形ユニットと十四面体の4分の3
図12 楕円錐ユニットとフラクタル
図13 成長
4. 無限分形フラクタル多面体ユニットの応用
まず来春3月に深圳の画廊「芸術空間1618」で作品として発表する予定である。技法は日本と中国の伝統工芸である乾漆で現在試作を進めている。乾漆には以前から関心があったが、今回内部に磁石を設置しており、インタラクティブに動かして様々な形を作り出せるようこの技法を用いることにした。
今回の無限分形フラクタル多面体ユニットは、情報造型ユニットに代表的なアイテムとして属することになる。情報造型ユニットを、アートワークとしてだけでなく、造形教育の分野と、高齢者の認知症予防や、視覚障害者の立体感知能力向上プログラム等の医療福祉の分野で、応用する社会普及事業の実現に数年取組んできた。そのために日本と中国で特許はすでに取得済である。そして中国ではユニットにちなんで「由你動―YouNiDong」として商標登録済である。また今回情報造形ユニット10アイテム程の意匠登録申請をしたところである。
今回の無限分形フラクタル多面体の大型の軽いユニットが出来れば、幼稚園児がグループでフラクタルや情報造型、空間充填等の高度な空間幾何学を体感し、理解出来る環境遊具として応用することも視野に入れている。
芸術の医療福祉や造形教育への応用を目標とするこの事業の最も重要なことは、その効果においていかに科学的な治験を得られるかということにある。すなわち科学的なモニタリングが必要である。このために16年前に日本で設立し活動を続けてきた「福祉芸術文化研究会」を活性化し、日本での高齢者施設や、盲学校でのモニタリングに取り組めるよう進めている。